英語は頭を働かせ
心を動かして学ぶ
子どもたちが能動的に学べるように
まずは言葉の音と意味を
結びつけるところから始めましょう

粕谷 恭子
東京学芸大学教職大学院教授

キソサポには、NHK Eテレで放送された小学生向け英語番組が多数登録されています。

「プレキソ英語」もその一つです。「英語の音に慣れること」に重点に置き、初めて英語に触れる児童が楽しく学べるよう、アニメ「Sushitown」や「Tell Us About You!」の海外ロケ映像、ネイティブによる早口言葉など、多彩なコンテンツが高い評価を得ました。

今回は「プレキソ英語」の監修をおこなった、粕谷恭子先生にお話を伺いました。

小学生のうちから力をつけていく学び方

■今の小学校英語教育に必要なものは何でしょうか?

 小学校英語教育は「音声重視」と言われていますが、小学校3年生から高校3年生まで続く英語教育の中で、音声重視で英語と出会わせるということがどういうことなのか、もう一度よく考えることが必要だと感じています。もう一つは子どもの学び方。これまで中高生に力をつける指導はありましたが、小学生のうちから力をつけていく指導のあり方は、まだまだ開発中で今後も耕していくことが必要です。

■小学生のうちから力をつけていくには、どのような指導が必要でしょうか?

 子どもが未知の言葉ができていくようになるためには、言語経験の順序を意識して指導することが必要だと考えています。はじめに「音と意味を結びつける経験をする」。つぎに、発話するプレッシャーがない段階で、「(意味が分かった上で)音をたくさん溜め込む」、そのあと「口慣らし」をしていく。このステップを踏まえて、話すことができるように指導する必要があると考えています。

 決まったフレーズを台詞のように繰り返し練習する、九官鳥でも授業が受けられるというような活動ではなく、「もしかしたら、こういう意味かな?」「さっきも同じ言葉を使っていたな。」「あ、そうか!」というような、児童自らが頭を働かせて心を動かして学ぶという、言葉を学んでいく上での醍醐味を経験させてあげたいと思っています。

 例えば、数字を使った出席番号の活動があります。先生が出席番号を言い、自分の番号だと思う児童が手を挙げるという簡単な活動です。先生が「twenty-seven」と言うと、7、17、27、37番の子がいっせいに手を挙げる。先生が数字を見せると、27の子以外は「あ、自分じゃなかった」となります。結果的には間違っていますが、「なんとかsevenは、27・37・47…のときに使うんだな」と子どもたちは少しずつ気がついていきます。このように間違いながらも子どもが自ら気づいていく経験が言葉を学ぶ上で大切なことだと考えています。
「この活動をするために、これを練習してできるようになっておきましょう」ではなく、トライアル&エラーがあって良いのです。このような学びが「言語活動を通して」の学びなのではないかと考えています。

■先生たちはどのようなスタンスで指導を行えば良いでしょうか?

 新しいことなので、先入観をなくすということが大事じゃないでしょうか。先生が中学生時代に学んだ方法は、お手本を聞き繰り返し練習して覚えて音を出す、という方法だったかもしれません。しかし、小学生には小学生に合った指導方法があると思います。

 特に小学校の先生には、子どもたちの学びを見取る力、言葉を見抜く力があります。ぜひその力を発揮して、他の教科での経験を英語教育の指導にも活かしていただきたいと思っています。英語力の足りないところは、外部講師やキソサポなどでも補完することができます。教える力はすでに持っているので、先入観をなくして、他の教科を教えるときと同様に取り組めば大丈夫です。

キソサポを活用した学習のポイント

■「音と意味を結びつける経験」にはどのような方法が良いでしょうか。

 先生が事前に音と意味の合った題材を探してくるというのは、けっこう大変なことだと思います。キソサポの中に「Sushitown」というアニメがありますが、音と意味を結びつける経験にぴったりなので、ぜひ活用してもらいたいと思います。

 例えば、今日のテーマは「できる・できない」だったとします。まず先生が「○○sensei can play tennis very well.」や「○○sensei can’t drive a car.」など、子どもたちが知っているようなことを話題にして、「今日はできる・できないの勉強をするのかな?」と感じさせておきます。

 そのあと、Sushitownの第12回「ぼくの得意なこと(I can swim!)」を見ます。1分半程度の短いアニメの中に「できる・できない」という表現がたくさん出てきます。そうすると子どもたちは、アニメに登場するキャラクターが発する音と絵を見て、「できる・できないのお話をしている!」「やっぱりね!」と気がつくでしょう。「Sushitown」のアニメには物語があり、その中にテーマに沿った会話が何度も登場するように工夫されています。同じような動画でも前後の文脈がないものだと、子どもたちは音と意味を結びつけるという経験をすることはできません。  

■キソサポのコンテンツをどう使うと効果的でしょうか?

 「Tell Us About You!」や「Key Phrases」は、同じ表現をネイティブの音声で繰り返し聞くことができるので、音と意味を結びつける経験をした後の、「音を溜め込む」ときに効果的なコンテンツだと思います。

 例えば、「Tell Us About You!」の「#1名前をいう」では、大人から子どもまで総勢16名のネイティブの発音で、「I am ~.」を使った表現を繰り返し聞くことができます。

 口慣らしで発話するときは「Call and Response」がおすすめ。「Sushitown」に登場するキャラクターたちとリズムに合わせて発話していくうちに、英語らしい音で話すことに慣れることができます。

 その他、早口言葉や歌の動画では、英語の音作りを楽しむことができます。早口言葉には字幕が出ますので、音と文字のつながりを感じることもできるでしょう。

 動画コンテンツの中には宿題クイズが付いているものがありますが、これは子どもたちを評価するためのものではありません。「全部できた人? Good!」などと出来栄えを確認するためではなく、クイズの答えが分からないときは学びのチャンスと考えて、もう一度動画を見直してみるなどできると良いですね。

■絵カードはどのように活用したら良いでしょうか?

 絵カードには、タブレットや教室のモニターに映すデジタル的な使い方と、印刷して使うアナログ的な使い方の2通りあると思います。

 絵カードを単体ではっきりと見せたい場合はモニターを使います。動物の絵カードを何枚かピックアップしてフラッシュカードを作り、一緒に発音します。このとき、ただ発音させるのではなく、大切なのは子どもたちに考えさせること。例えば、「自分がペットにしたい動物のときだけ発音する」というお題を出します。すると、子どもたちは自分でプチ判断をすることになり、より深く音と意味が結びつくことでしょう。

次に絵カードを印刷して使用するときですが、裏にマグネットを付けて黒板に貼れるようにします。黒板を一つの「場」として捉え、山や海、川などの絵をさっくり描き、動物の絵カードを持って「Where do they live?」と質問します。サルが山に、イルカは海に…と貼っていくと、授業が終わるころには、このクラスで作った一つの世界が出来上がるでしょう。黒板の良さは授業でやり取りした結果が残ること、そしてクラス全体で共有しやすいという点にあります。デジタルとアナログ、両方の良い所を使い分けて、もっといろんな活用法を発明できると良いですね。

先生方にメッセージをお願いします

 子どもたちが大切にされ、言葉も大切にされるような英語教育なら良いなと思っています。だからと言って、先生の負担が大きくなっては続きません。キソサポのようなツールを使うことで準備が簡単にできるように工夫するのも一つの手です。

 そしてあとは子どもたちにも、頑張らせすぎない。英語が嫌いになってしまっては元も子もありません。お互いに英語を頑張らないようにすることで、気持ちが楽で軽やかな英語の授業ができると思います!

粕谷恭子先生

粕谷恭子

東京学芸大学教職大学院教授。聖マリア小学校英語科講師。
『みんなあつまれ!はじめての子どもえいご』
『ここから始めよう小学校英語―楽しい指導の第1歩』など著書多数。 『プレキソ英語』(NHK Eテレ)、
『プレキソ英語 そのまま使える小学校英語教材』(NHKエデュケーショナル)などを監修している。
※記事公開時点の情報です。